平飼い鶏

【専門家が教える】平飼い養鶏とは?メリット・デメリットをケージ飼いと徹底比較|味・栄養・価格まで完全ガイド

 

最終更新:2025-05-07 | 執筆:松本(素ヱコ農園・平飼い歴5年)

動物福祉への関心が高まる今、「平飼い卵」「ケージフリー」に注目が集まっています。

本記事では畜産の現場と一次文献をベースに、飼育方法・味・栄養・価格まで丸ごと解説。

読み終える頃には、あなたの卵選びが変わるはずです。

1. 飼育方法を知る ― ケージ飼いと平飼い

1-1. ケージ飼い(Cage Farming)とは

採卵鶏の約9割を占める主流方式。金属ケージを多段積みし省スペース・自動化で大量生産を行います。
メリット:土地効率・人件費に優れ卵価格が安定。
デメリット:羽ばたき・砂浴びなど自然行動がほぼ不可能で、海外ではバタリーケージ禁止が進行。

ケージ飼いは、その名の通り、鶏を金属製のケージ(かご)の中で飼育する方法です。現在の日本の採卵鶏の飼育方法としては、圧倒的にこのケージ飼いが主流となっています。

特徴:

  • 高密度飼育: 狭いケージの中に複数の鶏を入れて飼育します。一般的な「バタリーケージ」と呼ばれる方式では、1羽あたりのスペースは非常に限られています。経済産業省の「採卵鶏の飼養実態等に関する調査報告書」などでもその飼養状況が示されていますが、ヨーロッパなどと比較しても日本の飼養密度は高い傾向にあります。
  • 多段式: ケージを複数段に積み重ねることで、限られたスペースを最大限に活用し、より多くの鶏を飼育できます。
  • 自動化: 給餌、給水、集卵、糞の処理などが自動化されており、管理の手間を省き大量生産に適しています。卵はケージの傾斜を利用して自動的に転がり出てくる仕組みになっています。
  • 地面への非接触: 鶏が地面に触れることがないため、土壌由来の病原菌や寄生虫への感染リスクが低いとされています。
  • 行動制限: 鶏はケージ内で体を動かす自由がほとんどありません。羽を広げる、砂浴びをする、高いところに止まる(止まり木)、地面をつつくといった鶏本来の自然な行動が極めて制限されます。

なぜケージ飼いが普及したのか?

ケージ飼いは、高度経済成長期以降、鶏卵の安定供給と低価格化を実現するために急速に普及しました。少ない土地と労働力で大量の卵を生産できるため、生産効率が非常に高く、経営的なメリットが大きいことが最大の理由です。これにより、私たちは一年を通して比較的安価に鶏卵を手に入れることができるようになりました。

1-2. 平飼い(Free-Range / Floor-Raised)とは

ケージを使わず床面で群飼育。止まり木・巣箱・砂浴び場を設置し、鶏は自由に歩き回れます。屋外アクセスがある場合は放牧 (Pasture-Raised)と表記。日本の平飼い率は8.3 %(2024)に過ぎませんが、年々増加中です。


▲ 床敷きで走り回る採卵鶏(素ヱコ農園)

2. メリット・デメリット徹底比較

評価項目 平飼い ケージ飼い
鶏の福祉 ◎ 自然行動可 × 行動制限
鶏の健康 骨折率↓30 %※A 骨密度低下リスク
卵の味・栄養 ビタミンE 1.3倍※1 標準
生産効率 △ ケージ比-25 % ◎ 高効率
販売価格 10個 400-800円 10個 200-400円

※A Briggs 2021 / ※1 Ketta 2022

3. 味・栄養・価格のリアル

3-1. 味

官能評価では「卵白の盛り上がり(HU値)」「黄身のコク」で平飼い優位という報告が複数。
ただし味を左右する最大因子は飼料であり、「平飼い=必ず美味」の公式は存在しません。

3-2. 栄養

  • ω-3脂肪酸:放牧群で1.4倍
  • ビタミンD:屋外日光浴により+25 %

栄養差は飼料設計と屋外アクセス有無がカギ。

3-3. 価格

平飼いはスペース×人件費×飼料の3重コストで原価アップ → 市場価格はケージの約1.8倍。

4. 日本の「平飼い」表示とJAS基準

4-1. 有機JAS

屋外運動場+止まり木+砂浴びが必須。有機JASマークは国際輸出でも通用する唯一の公的認証。

4-2. 一般表示の注意点

「平飼い」表記は自主基準の場合あり。
確認ポイント:1羽あたり面積/屋外アクセス/飼料(NON-GMO?)/抗生物質使用履歴。

5. FAQ よくある質問

Q. 平飼い=放牧ですか?

A. 放牧は屋外10㎡/羽など厳格条件。屋内のみは平飼いに分類されます。

Q. サルモネラ菌のリスクは?

A. 飼育方法より衛生管理が重要。洗卵・選別・冷蔵を徹底すればリスクは同等です。

Q. 値段が高いのはなぜ?

A. 生産効率-25 %、人件費+30 %、こだわり飼料+15 %が主因。

6. 素ヱコ農園の取り組み

佐賀県伊万里市の素ヱコ農園は、NHK World-Japanで紹介されたフードロス循環型・平飼い養鶏。副産物発酵飼料で年間120tの食品ロスを削減し、ビタミンDリッチな卵をお届けしています

▲ おから・醤油粕を発酵させた自家配合飼料

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参考文献

  1. MAFF「採卵鶏飼養実態調査」2024.
  2. Briggs M. et al. “Keel bone damage in commercial hens” Poultry Sci 2021.
  3. Ketta H., Tůmová M. “Egg quality of hens in free range” Br Poultry Sci 2022.
  4. European Commission “End the Cage Age – Impact Assessment” 2023.
  5. Certified Humane “Laying Hen Housing Standards” 2023.
  6. 食品安全委員会「サルモネラ属菌リスクプロファイル」2019.
素ヱコ農園代表 松本啓

この記事を書いた人

松本啓(まつもとさとし)
素ヱコ農園 代表 / 養鶏家

1996年生まれ。
80歳を超えた祖母と共に循環型農業を実現したいと、大企業の内定を辞退。
海と山に囲まれた佐賀県伊万里市黒川町でゼロから平飼い養鶏をスタート。
餌と飼育法に徹底的にこだわった卵は、現在ミシュラン三つ星店でも採用される
“超人気の卵”へと成長。
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